HELLO CYBERNETICS

深層学習、機械学習、強化学習、信号処理、制御工学、量子計算などをテーマに扱っていきます

驚くべきロボット技術!

 

 

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ロボットといえば非常に機械的な印象を受けます。電気を動力源に、様々なアクチュエータを制御することで、正確無比な動作を行う産業用ロボットなどが活躍するようになってから長い月日が経ちました。「機械化・自動化」などをキーワードに、実用的なロボットが日本では非常に盛んに開発されてきて「ファナック」はFA(ファクトリーオートメーション)の世界首位に君臨しています。

ロボットの日本という印象がある方々も多いかもしれませんが、おそらくこれは前述のFAのためのロボットに関することでしょう。実は自由に自然な動作で移動する、例えばヒューマノイドロボットに関する研究では、日本はかなり遅れをとっています。

「ホンダ」のアシモに代表されるように、ヒューマノイドロボットの研究開発の先駆けは日本でした。しかし、不況になるにつれ、技術力の誇示ということ以外に意義を見いだせなかったアシモのようなロボットの研究は息を潜めていきます。そこで経済性を考えたFAのような実用的分野で活躍するロボットが日本では反映したわけですが、実はその裏、欧米では着々とヒューマノイドや動物型のロボットの研究が進められていきました。そして現在日本でも、再びアシモのような(失礼ながら)すぐには役に立つとは思えないようなロボットの研究が熱を帯びてきました。

これらはロボットの動作や判断機構に関して、知的制御の分野が発達してきたことにも関連していると思います。そこで今回は知的な制御が施されている(であろう)ロボットたちを紹介したいと思います。

 

 

Atlas

概要

Atlasはボストンダイナミクス社の開発した人型ロボットです。グーグルの傘下で、MIT発の企業です。以下Wikipediaの解説です。

 ボストン・ダイナミクスは1992年、マサチューセッツ工科大学 (MIT) においてロボットと人工知能を研究していたマーク・レイバート(英語版)(当時教授)が、同大学をスピンアウトして設立された。
設立当初は、American Systems Corporation社とともにNAWCTSD(英語版)との契約に下、DI-Guyというソフトウェアによる3Dシミュレーションを用いた米海軍用の航空機の発進トレーニングビデオを更新する業務に携わっていた。
2013年12月13日、ボストン・ダイナミクス社はインターネット関連サービス大手のGoogle社に買収された。この買収はアンディ・ルービンが進める同社のロボティクスプロジェクトにおける8社目の買収であった。 2016年3月にGoogle社が短期的には収益が期待できないとして売却を検討していると報道された。

以下にAtlasの動画を貼ります。2分ちょっとなので是非見てください。驚異的な技術力を垣間見ることができます。このアトラスに関しては以下のような特徴が、動画の中で見られました。

 

1.雪道などの不整地歩行を可能にしている

2.荷物を持つ際に重心移動により転倒することがない

3.バランスを崩す外力が生じても体勢を立て直せる

4.転倒した際にも自力で起き上がれる

 

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どのような技術が使われているのか

技術的な点では、二足歩行ロボットに関してはZMP(ゼロモーメントポイント)というものが重要になってきます。ZMPとは、簡単に言えば重心に生ずる重力と慣性力との合力が地面と交わる点のことです。

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ZMPとは動力学的な重心位置のことで、ZMPが足裏上に来るような拘束条件を与えることで二足歩行が実現できる。上はZMPを視覚的に表現した図。左右同じ姿勢だが、左は安定、右は慣性力のためZMPが足裏から外れて不安定となっている。(Wikipedia)

 

ZMPの位置が足裏に収まるように制御することで転倒を防ぐことができますが、不整地では通常これが非常に難しくなります。なぜなら不整地では足をついたときに、自身がどのような体勢になってしまうか(つまりどこに重心が来てしまうか)が容易には予想できないからです。

上体を立てなおすことで重心を移動したり、瞬時に僅かな移動をすることで慣性力の方向や大きさが変化しますから、これらを上手く行えば、バランスが崩れたとしても体勢を立て直すことができます。人間はこれを自然と行っていますが、ロボットにはコレがかなり難しい課題となっています。限られた環境ではあるものの、雪道など比較的悪路を歩行できたり、外力を加えてもバランスを保持できるAtlasは凄まじい制御技術の塊だと言えます。

 

Cheetah WildCat

Cheetah

こちらもボストンダイナミクス社のロボットです。

Atlasよりも古いもので、非常に有名なので知っている方も多いと思います。Cheetahは、驚くべきことに自身の身長の約半分以上の高さの壁を飛び越えてしまいます。実際の猫などに比べれば、まだまだの跳躍力ですが、金属の塊であるロボットにこれだけの跳躍力を生み出せる制御技術には驚くばかりです。

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WildCat

こちらもボストンダイナミクス社の4足歩行ロボットです。

こちらはかなり速い移動ができるのが特徴です。ターンする時には動物さながら、体勢を傾けながらバランスを取っているのが分かります。

歩行に関して、犬とサルでは前足と後ろ足の動かし方のパターンが異なります。それぞれに適したバランス感覚があるのでしょう(例えば人間の手を前足とすれば、左前足⇛右後ろ足⇛右前足⇛左後ろ足というパターンですね)。このような動物の歩行にヒントを得た方法というのも盛んに研究されており、動画では異なる2つのパターンで走行実験が行われているのが分かります。

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技術的な話

2足歩行に比べ4足歩行の方が姿勢制御は比較的容易だと考えられますが、それ故、高い走破性が要求されてきます。例えば災害時の瓦礫にまみれた道を自律して移動し、救援を行える能力などが期待されてきます。あるいは非常に重い荷物を持って素早く移動できることなども要求されるでしょう(特にアメリカは軍事的な意識が高いため)。ある意味実用に近いロボットの研究だと言えます。

しかし足の本数が多いと必然とアクチュエータの数も多く、これらを同時に制御する場合に、外乱に対してどのように姿勢を保つかは一意に定まらないでしょう。平地に対しては三脚あれば十分にバランスを保てるわけで、外乱が生じた際にも、三本の足に適した制御を行えば姿勢は保たれるはずです。歩行をする上では4本の方が適していますが、瞬間瞬間の外乱に対して4本の足を如何にして制御するかの問題が重要になってきます。また歩行速度に応じて、足の動作パターンは動物では一般的には変わります。これらのパターン生成の問題も重要な課題になってくるでしょう。

 

おまけ:Festo社のバイオミメティクスロボット

Festo社のロボットは現状荷物を運んだりなどのことはできそうにありませんが、バイオミメティクス(生物模倣)の分野のロボットとして非常に面白いロボットを開発している企業なので紹介します。

蝶形のロボット

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カンガル型のロボット

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雑感

最終的にはアクチュエータの制御を行っているわけですが、アクチュエータの制御を行う際に非常に多くのパラメータが存在するはずです。これらのパラメータがいかに獲得されているのか。おそらく線形システム理論によって構築されてきた従来の制御工学だけでは対応しきれないはずです。コレに対し制御理論は、ある点の近傍で非線形な挙動を線形近似する理論や、線形な微分方程式に外乱が含まれているとしても制御性能を保つロバスト制御理論などを発達させていきました。また、対象の振る舞いを確率的に記述する確率制御理論などもあり、特にカルマンフィルタなどはこの分野の重大な成果となっています。そして、制御性能を保つパラメータを獲得するためにニューラルネットや強化学習を用いる知的制御なども現れています。

今回紹介したロボットにはおそらく知的な制御が介入していると思われますが、人工知能や機械学習を含め、制御分野との連携も期待が膨らむところです。