直感的方法
「科学をポケットに」という思想のもと、科学にまつわる題材を取り扱うブルーバックスという新書があるのはご存知だと思います。
「物理数学の直感的方法」という書籍に始まり、現在では直感的方法のシリーズは全部で3つあります(物理数学、マクロ経済学、確率統計)。その最新刊が今回紹介する「経済数学の直感的方法 確率・統計編」です。
私は、物理数学と確率・統計の2冊を所持しています。
以前物理数学に関する紹介はしましたが、機械学習にとって物理数学すべてを学ぶ必要はありません(それでも物理数学の直感的方法は、数学を考える上で大事な示唆が得られますが)。

物理数学の直観的方法―理工系で学ぶ数学「難所突破」の特効薬〈普及版〉 (ブルーバックス)
- 作者: 長沼伸一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/09/21
- メディア: 新書
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今回、確率・統計といううってつけの題材でこのシリーズが出版されたためすぐに購入をしました。
経済数学の直感的方法 確率・統計編
なぜ経済数学?
私自身、経済学を専門にしたことはありませんが、機械学習の数々の応用事例は、経済学とある種の共通点があるように感じていました。それは、物理学や制御工学などのように、応用分野で成功してきた数学的手法を借りて適用してきたということです。
しかし目的は異なります。経済学はモデルの内部構造に特に興味があり、機械学習は新しいデータに対する予測に興味があります。このように方向性は違えど、それらを達成するために周辺での数学の応用事例を色々吸収しながら両者とも発展してきたと言えると思っています。
統計物理学で著名なボルツマンの名前は、機械学習をやっている人ならば多くの人が認知していることでしょう。また、制御理論の父と呼ばれるカルマンの名前も、きっと機械学習や経済学を学んでいる人は知っていることと思います。
たまには同じ分野の数学を用いてきた、異分野の発展の経緯を覗いてみるのも良いでしょう。
また本書の冒頭でも述べられていますが、「経済学の本」としても「確率・統計の本」としても使えるように、両方の目的を達成できるように書かれています。確率・統計というものがどういうものであるのかを、経済学という応用分野での活躍をなぞることで学ぶということです。
Why?の視点
近年の新しい手法をどのように用いていくか「How?」という観点で学ぶのも良いですが、たまにはそのような手法が生まれた経緯、必要となった理由「Why?」という観点で学ぶのも良いかと思います。
「Why?」という観点においては、発展の歴史を知ることが最も効率的だと私は考えており、今回紹介する本では、確率・統計が発展した経緯と、経済数学への応用が取り上げられています。
数学的レベル
初級編、中級編、上級編と分かれており、数学的知識に関する配慮はかなり施されているように思います。本書では理系と文系両者を意識しながら書かれていますが、それはあまり気にせず、自身の数学レベルに応じて読み進めればいいでしょう。
初級編は数学のレベルは至って簡単で、高校初年度レベルで十分でしょう。大事なのはその簡単な数式だけで、どんな概念が説明できるのかということです。
中級編は高校卒業レベルで読めるはずです。大学初年度レベルであれば十分でしょう。内容は最小二乗法から中心極限定理、ブラックショールズ理論などを「直感的に」説明しています。数式はその補佐くらいにしか登場しません。
上級編では大学生レベルの数学が必要になるかと思います。ブラックショールズ理論の構築について詳しく述べられていきます(公式の導出までは至っていはいませんが、解釈を得ることはできるでしょう)。
一貫して発展の経緯と本質的な部分を捉えている
この本では一貫して、その数学を構築してきた人間がどういう意図をもっていたのか、なぜにそれを考えだしたのかという経緯に触れています。教科書ではすでに綺麗に整えられたものしか見られないため、まさに「Why?」の部分が抜け落ちてしまいます。その部分を補ってくれる素晴らしい本です。
また、個々の応用については残念ながら記述されていません。なぜその考え方で良しと言えるのかということについて力が入れられており、それを具体的に使う方法(すなわち数式を解いていく作業)は書かれていません。しかしだからこそ本質的な部分に集中できると言えます。
個々の応用を補う本はたくさんあるので、それは別の場所でしっかり行いましょう。
どのような人にオススメではないか
・経済数学を使ってモデル構築をする具体的方法が知りたい人
・すでに経済数学にも確率統計にも精通しており、日本語がもはや冗長に感じる人
誰に特にオススメか
・確率統計を使って入るものの、なんとなく理解ができていないと感じる人